人は布に蠟を置き、染料で染める行為を行う。素材の蠟は染料の浸透を防ぎ、染料は布に浸透する現象を見せる。それは蠟染めにおいて当たり前のことである。その当たり前のことだけを作品に出来ないかと考えている。それには素材の持つ特性を十分に利用すること、そのための技法を確立すること、そして作者のエモーションを出来るだけ排除すること、これらが合わさることで私独自の表現が立ち現れ、延いては染色にしか出来ない表現へとつながるのではないか。素材が見せる現象を、私の制作という行為を感じさせず、自然に見せられるか。日本庭園に感じられる自然過ぎる不自然さのように。

「連続と不連続の境界」シリーズは、一度の蠟置きに対し、複数の染色を繰り返している。そのため蠟を置いた形跡も、染色を行った痕跡も、繰り返された行為の中に浮沈している。全てが望洋とした画面の中に現れる連続と不連続の境界に浸るのである。